研究戦略YAKU学‐研究現場から臨床へ‐No.72

超音波を利用した新たな診断・治療システムの開発を目指して


 近年の医療機器の発展は著しく、診断装置のみならず様々な治療装置が開発され、臨床応用されている。これら診断・治療機器は基本的に放射線、磁気、光、音波などの物理的なエネルギーを利用して診断や治療を行っている。これに加え、画像診断解析用のアルゴリズムの開発や複数の診断・治療機器の組み合わせなど、マルチモダリティーシステムによる診断・治療精度の向上が図られている。

 最近では、治療(Therapeutics)と診断(Diagnostics)を組み合わせたセラノスティクス(Theranostics)という新たな造語も登場し、2011年には“Theranostics”という雑誌も創刊され、本分野の注目度が急上昇している。

 様々な物理的エネルギーが医療応用されている中で、超音波造影装置は放射線被ばくがない非侵襲的な診断システムとして古くから利用されている。超音波造影は、リアルタイム性に優れ、空間分解能も高く、装置も小型化されベッドサイドにも容易に運搬可能である。

 さらに最近では、携帯電話サイズのハンディー装置も開発され、聴診器と同じ感覚で超音波イメージングを実施することも可能となっている。これに加え、超音波治療装置の開発も加速しており、現在では体外から体内の標的部位に数mmオーダーで超音波エネルギーを集束することのできる超音波治療装置(強力集束超音波:HIFU)が子宮筋腫、前立腺がんの焼灼療法として臨床応用されている。

 この治療装置は、核磁気共鳴イメージング(MRI)装置または超音波造影装置のガイド下で治療領域を設定し、焼灼状況を診断しながら治療を行っていく、まさしく超音波セラノスティクスである。

 このように超音波エネルギーの医療応用は、これまでの診断・治療法のパラダイムシフトを起こすと期待されている。

微小気泡の不思議な能力

 微小気泡の能力が世間に大きく報道されたのは、05年の愛・地球博(愛知万博)の淡水魚のコイと海水魚のタイが共泳する不思議な水槽の出現からではないだろうか。

 この水槽内には、酸素のナノバブル(100nm以下)が存在しており、これが魚の隅々の細胞まで浸透して細胞の生理活性作用を促し、淡水魚と海水魚の共存を可能としているのではと考えられている(REO研究所HP参照)。これ以外にも、牡蠣のオゾンナノバブルによる殺菌が実用化されている。また、船舶の摩擦抵抗低減デバイスとしてのマイクロバブルの利用なども研究が進んでいる。

 医療現場における微小気泡の応用では、すでにマイクロバブルが超音波造影剤として利用されている。通常、血液は超音波造影輝度が低く組織内の血管構造を超音波造影によりイメージすることは困難である。ドプラ効果を利用してカラードプラやパワードプラモードで血流の有無や速度、向きなどを把握することは可能であるが、詳細な血管構造までは把握することが困難であった。

 この問題に対して、マイクロサイズ(数μm)の気泡をごく微量投与することで、血流を流れるマイクロバブルが超音波を反射もしくはバブルの振動・圧壊による超音波シグナルの増強で、血管構造を鮮明に描出できるようになった。実際に、この原理を利用して、第一三共は肝腫瘤や乳房腫瘤性病変の超音波造影用マイクロバブル「ソナゾイド」を上市している。


 このような背景のもと、私たちは微小気泡の超音波による振動や圧壊現象を利用し、標的部位の超音波造影および標的組織や細胞への遺伝子や薬物のデリバリーに関する研究を進めてきた。

 この研究では、新たな微小気泡としてリポソーム型ナノバブル(バブルリポソーム)を開発し利用している。このバブルリポソームに超音波を照射すると、その照射強度に応じて振動や圧壊が誘導される。このバブルリポソームの振る舞いを利用し、様々な医療への応用が可能になると考えている

 実際にわれわれの検討では、血栓を認識するペプチド修飾バブルリポソームを血栓モデルウサギに投与することで、血栓にバブルリポソームが集積し、これまで超音波造影による検出が困難であった血栓の造影が可能となった。さらに、バブルリポソームが集積している血栓にバブルリポソームの圧壊を積極的に誘導できる治療用超音波を照射することで、血栓を破砕できることを見出した。

 この技術をさらにブラッシュアップしていくことで、血栓に対する超音波セラノスティクスを構築することができると期待している。また、プラスミドDNAやsiRNAを搭載したバブルリポソームをマウスに投与した後に体外から遺伝子導入した部位に超音波を照射することで、標的部位のみでバブルリポソームの圧壊が誘導され、超音波照射部位選択的に遺伝子が導入可能であることも見出している。

 将来的にはバブルリポソーム側での体内動態制御および集束超音波技術を利用した超音波照射部位制御の組み合わせにより、精度の高い遺伝子・薬物デリバリーが可能になると期待している。さらに、高強度の超音波照射とバブルリポソームの組み合わせでは、バブルリポソームの圧壊に伴う発熱やさらに激しいジェット流で細胞を傷害することが可能であり、がん治療への応用が期待できる。


 いずれにしても、これら技術の基本は微小気泡の振る舞いをいかに制御するかにかかっている。微小気泡の不思議な力を最大限に引き出すことで、様々な医療応用が可能になると期待される。

 現在、私たちの研究室一同は、この微小気泡の不思議な力にすっかり魅了されており、今後も微小気泡と超音波の組み合わせに関する研究に注力し、微小気泡を利用した超音波セラノスティクスの構築を介した社会貢献ができればと考えている。


帝京大学薬学部 薬物送達学研究室
鈴木 亮
丸山 一雄

薬事日報より

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