消毒薬の効果や安全性も焦点に‐日本防菌防黴学会・年次大会から

殺菌消毒剤は、病院等の医療施設における感染症の発生予防、医薬品製造工場および食品製造工場等での衛生管理、食品衛生分野での食中毒原因菌の発生予防、そして一般家庭における衛生環境向上など、様々な場面で貢献している。衣食住に関連する微生物や、それに由来する物質の制御を対象とする日本防菌防黴学会では、その名の通り防菌防黴に関わるあらゆるテーマに取り組んでいるが、今月10、11日に大阪で開かれた第40回年次大会でも、生活環境、医療環境、各種製造環境等を有害微生物から守るための研究発表・討論が活発に展開された。

●宿主側の感染リスク考慮を‐洗浄・消毒法をめぐるシンポ

 「食品・医療分野における洗浄・消毒法の実践理論と実際」と題したシンポジウムでは、東京工業大学大学院生命理工学研究科の岩澤篤郎氏が、医療分野に関する消毒薬の作用機序をテーマに発表した。

 発熱や下痢などの症候を伴う感染症の病態は、感染力のある微生物が関与し、排出している可能性があるため、医師が的確に感染症を診断し、院内感染対策チームに伝え、アウトブレイクを防止している。その際に、感染症専門医のいない中小の病院では、地域ネットワークを構築することで多剤耐性菌によるアウトブレイクなど、施設内だけでは対応できない困難な事例に関して相談・支援が可能になるなど、次々と対策が実施されている。

 岩澤氏は、「感染制御の目的は病院・介護施設等において、感染症の発症を予防することである。この目的の達成に向けて、医療分野では手洗いの順守をはじめ医療機器の洗浄・消毒方法の確立など、様々な対策を実施している」とする一方で、感染制御に際しては「宿主側の感染リスクを考えた対策が重要」とも指摘した。

 感染症患者に対する治療は、抗菌薬や抗ウイルス薬を使用するが、感染防御には消毒薬を使用する。この消毒薬は、抗微生物効果から高水準消毒薬(グルタラール製剤、フタラール製剤、過酢酸製剤)、中水準消毒薬(アルコール製剤、次亜塩素酸製剤、ポビドンヨード製剤)、低水準消毒薬(塩化ベンザルコニウム製剤、グルコン酸クロルヘキシジン製剤)に分類されている。

 手洗いでは、界面活性剤に塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジンを添加した製剤とポビドンヨード製剤のスクラブ剤、アルコールに塩化ベンザルコニウムやグルコン酸クロルヘキシジンを添加したラビング剤が、創部に対しては、ポビドンヨード製剤とグルコン酸クロルヘキシジン製剤が主に使用されている。内視鏡の消毒では、高水準消毒薬が推奨され、一部に電解水・オゾン水を用いた洗浄消毒器が使用されている。

 岩澤氏は、これら医療分野で使用されている消毒薬の特徴や作用機序、そして実際の使用上のポイントなどを紹介したが、「内視鏡の消毒で推奨されている高水準消毒薬は、大量の細菌芽胞を除く全ての微生物を殺滅するレベルであり、FDAでは抗菌薬に対して105の菌数減少を要求している。その反面、こうした消毒薬は劇薬指定であり、殺菌効果の高い製剤では手荒れなどの副作用も報告されている。殺菌効果と生体安全性という、背反する課題も考えなくてはならない」とした。

 そして「洗浄消毒の原則はあっても、具体的な方法というのは各施設ごとにオリジナルでやりやすい、最も効果的な方法を考えていく必要があると思う。同時に、消毒薬とか抗生物質が環境に放出されているという認識も必要。生態系に対する消毒薬の考え方、どう使い、どう排出していくかも十分に考えていく課題と思う」と指摘した。

●アルコール濃度差で薬効に影響‐欧州の手指消毒評価試験法で検討

一般発表では、丸石製薬の久川和之氏が「アルコール濃度の違いによる薬効への影響─欧州の手指消毒剤効力評価標準試験法(EN1500)による評価」と題し、報告を行った。

 手指衛生は、基本的かつ効果的な感染防止対策の一つであり、石鹸による手洗いやアルコール擦式手指消毒剤による手指消毒が行われる。石鹸による手洗いは、流水でのすすぎ・もみ洗いなどに時間を要すること、手洗い場までのアクセスの悪さのために順守率が低くなること、保湿剤を含むアルコール擦式手指消毒剤と比べて手荒れを起こしやすい、などの欠点がある。

 一方、アルコール擦式手指消毒剤は、流しなどの特別な設備を必要としない上に、場所が制限されずに必要に応じて適切なところで消毒が可能であることなど、石鹸の手洗いに比べて短時間で優れた殺菌効果が期待できることもあり、感染対策上、極めて有用な手指消毒法であるといえる。

 日本のアルコール擦式手指消毒剤には、主にエタノールが処方されており、日本薬局方の消毒用エタノールは約70~75wt%(76・9~81・4vol%)に規定されているが、これよりも低濃度であっても薬効にほとんど差がないとする報告もある。

 久川氏らは、前回の日本防菌防黴学会において、in vivo試験(パームスタンプ法)およびin vitro試験(Time-kill法)により、低濃度のエタノールと消毒用エタノールの消毒効果を比較し、確実な消毒効果が求められる医療現場では、消毒用エタノール濃度が必要であることを示している。

 そこで今回、消毒効果に及ぼすエタノール濃度の影響についてさらに詳細に検討するため、パームスタンプ法と比較して、菌液を手指に直接付着させるなど、より負荷をかけた条件で実施する欧州の手指消毒剤効力評価の標準試験法であるEN1500を用い、in vivo試験による基礎的な検討を行った。

 手指に付着させる菌株はEscherichiacoliを用いた。被験薬剤は72wt%エタノール、65wt%エタノール、55wt%エタノール、リファレンス薬剤は52・3wt%(60vol%)イソプロパノールを用いた。

 それによると、濃度の異なるアルコールの薬効評価結果では、リファレンス薬剤に対して、72wt%エタノールのみ有意差が認められず、65wt%および55wt%エタノールは有意差が認められた。薬効の個人差では、被験者3人ともリファレンス薬剤と72wt%エタノールの間に、有意差は認められなかった。

 これらから、久川氏は「前回報告したパームスタンプ法と同様、欧州の試験法においても低濃度のエタノールの薬効は減少する傾向が認められた。このことから、より確実な消毒効果を期待する場合、エタノールは消毒用エタノールと同濃度で使用すべきであることが示唆された。また、試験薬剤およびリファレンス薬剤の薬効の個人差を調べた結果、被験者間でリファレンス薬剤と72wt%エタノールの間に有意差が認められなかった。今回の試験法は、対象薬剤の薬効を安定して評価できる有用な試験法であると考えられた」と報告した。

●速乾性擦式消毒剤で高い効果‐手洗い方法による細菌数を比較

日常的に行われる手洗いだが、その目的は手から汚れを落とし、清潔にすることだけでなく、感染症を予防することもある。人間の体表面上には常在菌として様々な細菌が存在しており、食中毒や感染症を引き起こすことがある。こうしたことを防ぐためにも医療機関や介護施設、そして食品を扱う施設などでは手洗いが重要で、特に病院・診療所においては、患者間の交差感染を防ぐ必要性があり、確実な手洗い実践が求められる。

 摂南大学薬学部の岸本拓也氏らは、「手洗い方法の違いによる殺菌効果の比較」と題し、感染症予防の観点から、手洗いに用いる薬剤を変えることでの効果的な手洗い方法についての解析結果を報告した。

 方法は、男女を含む10人の手洗い前後において、手指に付着した細菌を採取した。手洗いの方法として、水洗いをコントロールとして、70%エタノール、医薬部外品のハンドソープ(ビオレu)、速乾性擦式手指消毒剤(ベンザルコニウム塩化物0・2w/v%配合の「ウエルパス」)の4種類を用いて行った。

 各手洗い前後において得られた細菌数を比較し、また採取した細菌について、マンニット食塩寒天培地での生育とマンニット分解性、オキシダーゼ試験、カタラーゼ試験および顕微鏡観察で、細菌の形態、芽胞形成の有無の確認を行った。

 その結果、いずれの手洗い方法においても、手洗い前よりも手洗い後の方が細菌数は減少した。この中で最も細菌数の減少が認められたのは、速乾性擦式手指消毒剤「ウエルパス」を用いた場合であった。逆に、最も細菌数に変化が認められなかったのは、ハンドソープを用いた場合であった。なお、手洗い後において検出された細菌の特徴は、手洗い前に検出された細菌の特徴と類似していたという。

 水洗いによる手洗いでは、芽胞を有する細菌が検出されなかったが、その他の方法では手洗い後に芽胞を有する細菌が検出された。芽胞は70%エタノールや界面活性剤などの薬剤に耐性を持つことから、流水を使わない70%エタノールや速乾性擦式手指消毒剤では、芽胞を有する細菌を完全に除去できない傾向があることも示唆された。

 これらの結果から、岸本氏は「流水が使用できない場合には、速乾性擦式手指消毒剤を用いて洗い、流水を使用できる場合には、速乾性擦式手指消毒剤と水洗いを組み合わせて手洗いを行えば、さらに効果的であると考えられる」とした。

●重要な家庭内でのカビ対策‐洗濯機の汚染メカニズムを調査

今回の年次大会では、浴室をはじめとする住環境におけるカビ汚染の調査研究も目立ったが、このうち「洗濯機主要汚染カビの汚染メカニズムに関する研究」と題して発表したのは、エステーR&D部門研究グループの高岳留美氏。

 高岳氏らは昨年の同学会で、洗濯機洗い水のカビ汚染と、洗剤や漂白剤、柔軟剤の使用有無や乾燥機の使用頻度など様々な要因を検討した結果、毎日洗濯機を使用する家庭よりも、週2~3回洗濯機を使用する家庭のカビ汚染度の方が高い傾向であることを報告している。そこで今回は、洗濯機でのカビ発生メカニズムを究明することを目的とし、汚染カビの合成樹脂への発育過程の検討も行った。

 洗濯機から分離されたCladosporium cladosporioidesと、NBRC6348の2株を試験カビとし、滅菌生理食塩水、100倍または10倍希釈したグルコースペプトン液体培地(以下GP)を用いて、胞子数が104個/mLとなるように調整したものを、それぞれ試験胞子液とした。

 この胞子液を、試験片としてPE樹脂にそれぞれ滴下接種し、25℃相対湿度95%以上の環境で1日培養後、そのまま培養を続けるグループと、滴下した胞子液を風乾させてから培養を続けるグループに分けて培養した。これら条件下での試験カビの発育について形態観察を行った。

 その結果、試験カビを滴下接種し、そのまま培養を行ったグループは、胞子液の中では菌糸伸長を主とする発育を続けた。また、培養1日後、風乾させたグループは、培養2日目から胞子産生が確認されて、大量に胞子を産生することを確認したという。

 以上から、高岳氏は「前年度の洗濯機汚染度の研究結果である『毎日洗濯機を使用する家庭よりも、週2~3回使用した洗濯機の洗い水のカビ数が多かった』ことの理由として、今回の結果が重要な証明となることを確認した。さらには、洗濯機だけでなく浴室、トイレ、シンク周りなど、室内の高湿環境の主要汚染カビであるCladsporiumは、汚染水が存在する場合はその液体の中で菌糸伸長し、乾燥した時に大量に胞子形成を繰り返すと推測された」と報告を行った。

薬事日報より

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